[No.2] 「留学」から得られること (2009年卒業  市川安希)

2014-05-21

ichikawa

留学をして学ぶこと、それは学校の中、先生からのレッスンばかりではありませんでした。

生活していく上で日本ではなかなか起こらない事態に遭遇して学んでいく、ということもありますが、もっと根本的なことを体感していくことにも留学するという意味があると思います。そして、それは音楽の解釈にも新たな見方をくれたと思っています。

イギリス人はお天気の話をすると有名ですから、お天気の話をしたいと思います。

イギリスは緯度が日本より高いので夏は日が長く、冬は日が短くなります。冬場はお天気に恵まれない日が続きます。文章にしてたった2文。少し調べれば、情報化の進む昨今、誰でも知りえます。しかしこれが何をもたらすのか、一体どういう感情を引き起こすのか、ひいては、どういう感情を生み出すから、どういう表現になってくるのか、これは実際経験してみないとわかりません。そして、生み出される感情も人それぞれです。

作曲家が何から着想を得て作曲するか、答えはでませんが、しかし例えば、ロンドンに暮らす人には共通認識として、「冬は暗く、夜が長い」としてあるものは、日本の太平洋側に暮らす人にはないものです。この「冬は暗く、夜が長い」と思っている人の考える冬とそうではない人の考える冬が同じイメージになることは普通ないでしょうし、そういった違いが作曲にも表れると思えるのです。

もちろん、演奏するすべての作曲家の気候を深く経験するのは至難の業ですが、もしその考えのきっかけとなるものが掴めれば、見方も変わってきます。

例えば、冬にドイツを訪れた時に、吹雪になり、外に出ても何にも見えなくなることがありました。日本では経験のしたことのないものです。ところが、隣に座るドイツ人は「今日は吹雪くね」といつものこと、といった様子。その吹雪の様子を見ながら、私はブラームスのある曲を思い浮かべましたが、同時に感覚というものは、環境から作られるものも大きいということを実感したのです。何もかもわかることはありませんが、一つがしっかりと理解できる前と後とは見え方が全く異なりました。ゼロサムとまで言っていいかわかりませんが、曲を考えていく上でそれまでとは大きな違いが生まれました。

環境、ということを発展させて考えていくと色々なことがわかります。

気候や言語。音楽を考えた際にとても重要な因子だと思います。そして宗教。それらから発展して、建築、絵画など芸術が音楽に与えた影響は計り知れません。それはバロック、ロマン派といった単語からも窺い知ることができます。そして文化となり、集約されて国民性といったところに表れてきます。どんな個人も様々な生来の影響を受け、その中に作曲家もいて、曲は作られて、また演奏家が演奏をする。これらのトピックを一つ一つでもきっと大きな研究対象になるでしょうし、また“時代”という考え方を入れるとさらに色々な因子がからんできます。深く研究して、考察を深めていくこともできるでしょう。研究までは難しくとも、音楽を考えるにあたって見方が広がっているか、いないかは大きな差になると思います。

実は見方を広げるきっかけは何でもいいと思います。どこにいても色々なきっかけはあります。日本にいても、もちろんあります。私が言えることは、留学は間違いなくその大きなきっかけになるだろうということです。

私が、特に音楽を志す人に、留学の重要なところだといいたいのは「実感」するということです。インターネットも発達して、情報は世界中どこにいても入ってくる環境において、また海外の先生方や音楽家が日本に訪れる機会も多い中で、なぜわざわざ留学をする意味があるのかという答えの一つは、「実感」は経験しないとできないからだと思っています。テレビ越しでは、文字からでは、結局わからないからです。

そして、ただ知識として持っていただけでは、音楽に反映させることは限りなく難しい。

もちろん、どんな場面においても、ただ持っているだけでは知識は役に立ちませんが、音にするということはその中でも非常に難しい部類に入ると思います。

そして、得た知識や実感を、音楽に反映させて話す相手がアカデミーにはあふれていて、すでに体現している人もたくさんいます。様々な国の人たちが来ていますから、上記のような話題には事欠かきませんでした。反映させる難しさは、アカデミーで試行錯誤しているうちに過ぎていたと思っています。実は一番難しいところかもしれませんが、皆が必死に努力をしていた中で、必死にやっていたら、難しさをわざわざ考える時間はありませんでした。そしてそのような環境にいた経験もまた、留学して得た重要なことになっています。

アカデミーに行ってよかったこと、得られたことを一言では言い表すことはできませんが、得るものは確実にあります。何を得るかは自分次第。これから行かれる方、行きたいと思われている方、存分にアカデミーを満喫してください。

市川安希 Aki Ichikawa (2009年卒業)

 

 

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